夜空に出現した一つ筋のオーロラが、突然破裂したかのように激しく広がり、幾筋もの光が上空を包み込む。究極のオーロラ体験と言われるオーロラ爆発。この極めて壮大で神秘的な現象が起こる背景には、磁気嵐と呼ばれる宇宙規模の現象が密接に関係しています。
オーロラの形の違い
変化するオーロラ
夜空に出現するオーロラの規模は、太陽活動や地球磁場などの様々な要因で変化します。そのため、自然現象であるオーロラの形は様々であり、二つと同じ形をしたものは存在しません。しかし、その形のバリエーションは大きく3つのタイプに分けることできます。
それぞれのオーロラの形は、オーロラの活動レベルと、そのオーロラの観測位置によって決まってきます。オーロラを遠くから見ると「アーチ状(帯状)」のオーロラに見え、近くなると「カーテン状」として揺れ動く姿を見ることができます。そして、オーロラの真下では、まさに天から光が降り注いでくるかのような「コロナ状」のオーロラを見ることできます。オーロラ爆発とは、このコロナ状オーロラの最高レベルのものを指すものです。オーロラの活動規模が大きくなればオーロラオーバルも広がることになり、より真下で見られる確率が高まることで、オーロラ爆発に出会う可能性が高まるのです。
オーロラの形状の、代表的な3種類のタイプ
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アーチ状(帯状)
活動の弱いオーロラは遥か遠くに出現することが多く、夜空には帯状のアーチのような光の筋が走ります。オーロラベルトの淵では、比較的によく見られるタイプです。
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カーテン状
活動がレベルが高いオーロラを、離れた場所から見るとカーテン状に揺れ動く姿で見られます。多くの人がイメージするオーロラとは、このカーテン状のものではないでしょうか。
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コロナ状
活動レベルが最も高い時に見られるタイプで、オーロラオーバルの最も強いエリアの真下にいる場合、このように見えます。オーバルが大きく広がりを見せる時に、遭遇しやすくなります。
オーロラ爆発
非常に活発なコロナ状のオーロラが、オーロラ爆発、またの名をオーロラ・ブレイクアップと呼ばれる現象です。天空からシャワーのように降り注ぐ姿は、美しさを超えて恐怖さえ感じてくるほどです。ブレイクアップ(Breakup)は”裂ける”という意味がありますが、まるで天空が裂け落ちてくるように見えることから、名付けられたのかもしれません。頭上に降り注ぐ光が織りなす天体ショウは、見る人すべてに心が震えるほどの感動体験を約束してくれることでしょう。遭遇確率はけっして高くはありませんが、間違いなくトライする価値のある壮大な神秘の現象です。
磁気嵐
オーロラ爆発と磁気嵐の関係
オーロラ爆発を起こすには、非常に強く、広範囲に広がるオーロラオーバルが生まれなくてはなりません。そして、その最たる原因となるのものが「磁気嵐」と呼ばれる現象です。
磁気嵐は、太陽から来るプラズマの粒子、太陽風が、強い南向きの磁場を伴っている時に発生する、地球磁場の変動現象です。磁気嵐の原因となる太陽面の主な活動は『太陽風を起こす3つの太陽活動』で解説した「太陽フレア」「コロナ質量放出(CME)」「コロナホール」です。
磁気嵐が発生すると、極地では激しいオーロラの嵐を起こす代わりに、人工衛星の電子精密機器の故障、短波通信の障害などを引き起こすこともあります。
磁気嵐により起こるプラズマシートの拡大
オーロラの素である大量のプラズマ粒子、太陽風は、地球の太陽と反対側に蓄えられたプラズマシートに溜まり、このプラズマシートから、地球の極地へと流れ込むプラズマ粒子がオーロラを発生させます。(『地球磁気圏への侵入』参照。)オーロラの発生レベルとは、プラズマシートに蓄えられたプラズマ粒子のエネレギーレベルと密接に関係しており、磁気嵐はこのプラズマシートを大きくする原因となります。
地球の磁場は、南がN極、北がS極であり、磁場の向きは常に「北向き」です。一方、地球の100倍以上もある太陽の磁場の向きは非常に複雑であるため、太陽から発生する太陽風に伴う磁場は、その時により北向きであったり、南向きであったりします。地球に到達した太陽風の磁場が南向きの場合は、北向きである地球の磁場に引かれるため、通常時よりも多くのプラズマ粒子が、プラズマシートに入りこむことになります。そして、プラズマシートのプラズマ粒子が増量することでプラズマシートは肥大化し、プラズマシートの地球側の境界は、より地球に近くなってくるのです。
プラズマシートに蓄えられた粒子は、磁力線に沿って地球の大気に降り注ぎますが、プラズマシートがより地球に近くなるということは、より多くのプラズマ粒子が低緯度まで運ばれることに繋がります。磁気嵐に肥大化したプラズマシートは、オーロラの出現エリアであるオーロラオーバルを大きく、幅広にする要因となり、結果、オーロラの真下で見るオーロラ爆発の確率が高まることになるのです。
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太陽面で起こる複雑な磁場
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通常のプラズマシートの大きさであれば、プラズマ粒子の侵入域は、緯度60度から70度の範囲となる。
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磁気嵐の時は、プラズマシートの地球側の境界がより地球に近づくため、プラズマ粒子の侵入域はより低緯度のエリアまで広がることになる。
オーロラ爆発に出会うには?
ブレイクアップに出会えるのは、多分に「運」によるところが大きいのですが、一つ考えられる方法は、磁気嵐の予報を知ることです。情報通信研究機構 (NICT) 傘下で設立された宇宙天気情報センターが、「宇宙天気予報」を行っています。詳しくは『宇宙天気予報とオーロラの関係』を参照してください。宇宙天気の予報は非常に有益なことは事実ですが、実際のところ、旅行者がブレイクアップのタイミングを数か月前から予想し、オーロラ鑑賞地を訪れることは容易ではありません。
では、一度だけのオーロラ鑑賞旅行で、確率を高めるにはどうすれば良いでしょうか。答えは、より可能性の高い鑑賞地を選ぶことです。具体的には、よりオーロラベルトに近い場所で、より晴天率の高い場所であること。そして、都市郊外のロッジなどの、一晩中オーロラ出現を待機できる場所に宿泊することです。大切なことは、自分が選択できること、どうしても神頼みになってしまうことを、しっかりと区別することです。
カナダ、ユーコン準州のクルアニロッジ上空に現れたオーロラ爆発。
ヤムナスカ・マウンテン・ツアーズ 堀口慎太郎 |
熱狂的なオーロラファンとサーファーの共通点?
まったく関係のなさそうな両者ですが、実は両者のファン心理には、とても面白い共通点があります。熱狂的なサーファーは、非常に大きな台風が到来すると、大きな災害であることは分かっているものの、巨大な波の到来を喜んでいる自分に気づくそうです。これは、地球に磁気嵐が到来し、様々な機関や電子機器に障害を引き起こすことは分かっているものの、オーロラ爆発の到来にそわそわしてしまうオーロラファンの心情と似ていますね。
低緯度オーロラ
低緯度オーロラと磁気嵐の関係
通常、オーロラが見えるのは、緯度60度以上の高緯度地域に限られます。しかし、磁気嵐が発生すると、高エネルギーのプラズマ粒子が大量に電離層に送られてきます。このような時はオーロラ発生エリアであるオーロラオーバルの幅も非常に大きくなり、普段はなかなかオーロラを見ることのない北海道やニュージーランドの低緯度のエリアでも見られることがあります。このように、比較的に緯度の低いエリアで観測されるオーロラは「低緯度オーロラ」と呼ばれます。低緯度オーロラは、赤やピンク色にぼやっと見える特徴があります。
2013年10月3日 Queenstown, New Zealand で撮影。(C)Minoru Yoneto.
低緯度オーロラが赤く見える理由
低緯度オーロラの原因となる磁気嵐は、通常よりも低い緯度である50度から60度付近までの範囲にも非常に強いオーロラを発生させます。『高度と色の関係』で説明したオーロラの色と高さの関係を思い出してください。
磁気嵐によるオーロラ爆発のように非常に強いオーロラの発生しているエリアでは、それぞれの高度に起因する赤、緑、ピンクなど色鮮やかな光が発生します。このような時はオーロラオーバルは非常に巨大で幅広になり、また、オーロラの発生する高度は約500kmにも到達するレベルになるでしょう。そして、このレベルのオーロラが発生している時に北海道から北の空を見れば、きっと空を赤く染めるオーロラが見えるはずです。地球は球体であるために低緯度から北の空を眺めると、高い高度の赤いオーロラが観測され、低い高度の緑は地平線の下に隠れてしまうのです。もちろん、オーロラオーバルがさらに幅広で巨大になれば、理論上は低緯度でも巨大な緑のカーテンが見えることになります。しかし、実際にはそのレベルのオーロラが観測された記録は残っていません。いつの日か、かつてないほどの太陽活動レベルに達した時、我々の日本でもコロナ状のオーロラが見える日が来るのかもしれません。
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通常レベルのオーロラ活動
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磁気嵐時のオーロラ活動
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日本での観測記録
日本での観測記録は多くあり、最近では2015年3月に北海道で観測されています。歴史を見ると、1770年9月に北海道から九州の長崎までの広い範囲でオーロラが見られた記録が残っています。また、さらに古いものですと、奈良時代に書かれた最古の文献「日本書紀」にもオーロラのことが「赤気」という表現で記述されています。推古天皇の時代には、『天に赤気あり、その形は雉(きじ)の尾に似たり。』という記述が残っており、大和飛鳥でオーロラが見えたことになります。藤原定家の「明月記」には、『北の空から赤気が迫って来た。その中に、白い箇所が五カ所ほどあり、筋も見られる。恐ろしい光景なり。』とあり、当時の人々がオーロラを恐怖の光景ととらえていたことがわかります。オーロラは京都にも何度も出現し、山火事、野火、旗などと表現されています。
次は、宇宙天気からオーロラを予報する方法を解説します。
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