太陽活動によって起こる磁気嵐や宇宙空間に充満する宇宙放射線は、人工衛星や宇宙飛行士だけでなく、地上での通信障害などにより私たちの生活にも影響を与えることがあります。これらの被害を軽減する目的で宇宙天気予報は行われており、この宇宙天気を知ることでオーロラの予測に役立たせることができるのです。
宇宙天気
宇宙天気とは?
宇宙空間は真空で何も変化の起こらない場所と思われがちですが、実際には微量の電気を帯びた様々な粒子が存在しています。「宇宙天気」とは、これら宇宙空間に充満する粒子により起こる宇宙環境の変化を指す言葉です。
例えば、太陽活動面で発生する太陽フレアやコロナ質量放出(CME)は地球磁気圏に磁気嵐を起こし、人工衛星や宇宙飛行士だけでなく地上での通信障害などの被害を引き起こす原因となります。そのため、これらの障害を軽減するためにも宇宙天気の予報が必要とされているのです。
情報通信研究機構 (NICT) 傘下で設立された宇宙天気情報センターでは、NASAやJAXAなどが開発した複数の太陽観測衛星から送られてくる様々なデータを収集し、宇宙天気予報を行っています。 現在、宇宙天気予報によるデータは宇宙開発機関や通信衛星などを運営する機関だけでなく、地上での空港管制システムや航空関係機関、電力会社など様々な分野でも活用されています。
宇宙天気予報の活用術
最新の宇宙天気データを扱う機関
宇宙天気情報センターでは非常に広範囲で専門的なデータを取り扱っており、そのうちのいくつかの要素はオーロラの発生と非常に密な関係にあります。なかでも特に役に立つ情報の一つが、オーロラの素となるプラズマ粒子、太陽風の発生状況です。宇宙天気情報センターでは、連日、太陽の活動を観察したレポートが更新されており、現在の太陽風の状況と過去数日のデータを知ることができます。
宇宙天気情報センター
太陽風の速度と向き
読み取るコツ
早くて南向き磁場を伴う時は期待値が高い
数ある情報の中で最も有益なデータが、太陽風の速度とそれに伴う磁場の向きです。では、どのような数値の太陽風が理想的なのでしょうか。単純に言えば”早くて南向きの強い磁場を伴う太陽風”となります。(なぜ南向きが良いかは『オーロラ爆発と磁気嵐』を参照。)
太陽風の規模は太陽面で起こる3つの現象「太陽フレア」「コロナ質量放出(CME)」「コロナホール」の規模により大きく左右され、低速になったり高速になったと頻繁に速度も変化します。太陽風の磁場強度は「nT(ナノテスラ)」単位で表記され、プラス(+)が北向き、マイナス(-)が南向きとなります。 太陽風が秒速900km/sec以上で、マイナス10を超える南向きの磁場が発生している時は、「磁気嵐」を伴うことが多くあり、オーロラ爆発が期待できます。
太陽風の速度 オーロラの期待値 秒速900km/sec ~
(非常に速い)激しく強い 秒速700km/sec ~ 900km/sec
(かなり速い)大 秒速500km/sec ~ 700km/sec
(速い)中 秒速350km/sec ~ 500km/sec
(平均的小 秒速350km/sec 以下
(低速)弱
太陽フレアの規模
読み取るコツ
Mクラス以上の数値は期待値が高い
太陽フレアとは太陽面で起こる爆発現象です。発生した太陽フレアの規模は、太陽風の速度やプラズマ粒子の密度を左右することにもなり、フレアの規模が大きければ大きいほど、オーロラ発生への期待値が上がります。
太陽風が地球に到達するには、約2日から3日かかることになりますが、速度は発生したフレアの規模により大きく変わることも忘れてはなりません。太陽フレアは主に「黒点」附近の強力な磁場エネルギーが開放されて起こることが分かっています。つまり、黒点が多いほど太陽フレアも発生する可能性が高いと言えます。太陽フレアについての詳細は以下の関連リンクを参照してください。
フレアの等級
フレアの規模は放出されるX線の強度を基準に5つのクラスに分類される。各クラスは1から9の番号で分割され、「C1.2」「M2.5」などの様に小数点一桁までの数値で表される。
宇宙天気の用語集
AE指数
高緯度(主にオーロラベルト)で観測された地磁気データを基に作られており、オーロラ活動の強さを表す。数値はオーロラ帯を流れる電流の最大密度。
CME(Coronal Mass Ejection)
コロナ質量放出。太陽から宇宙空間へ突発的に「プラズマの塊」が放出される現象。強い太陽風を引き起こす。
コロナ
太陽の表面を覆う大気の層。約100万度以上の高温となる。太陽風の素、プラズマで構成されている。
コロナグラフ
太陽コロナを常時観測できるように設計された観測装置。
コロナホール
太陽を覆う大気であるコロナに見られる、低温、低密度の巨大なエリア。強力な太陽風を起こす場所。
デリンジャー現象
太陽フレアによるX線や紫外線の急増により電離層に何らかの異常が起こり、地上なので通信障害を起こす現象。
電離層
地球大気の上層部にあり、分子や原子が紫外線やX線などにより電離した領域。高度50kmから500kmの範囲を指す。電離層は電子密度の違いによって、下から順にD層 (60kmから90km)、E層 (100から120km)、F1層 (150kmから220km)、F2層 (220から800km) の4つに分けられる。
太陽フレア
太陽面で起こる爆発現象。クラスは強い順から、「X」>「M」>「C」>「B」>「A」となり、各クラスはそれぞれ10倍ずつの差がある。
GOES
アメリカ合衆国の静止気象衛星。
磁気圏 (Magantosphere)
惑星などの天体の周囲に存在し、惑星固有の磁場に支配されている領域。
磁気圏尾部 (Magnetotail)
磁力線が太陽とは反対側の地球の夜側に、まるで彗星の尾のように流されて伸びている部分。
Kp指数
全球的な地磁気活動の目安となる数値。3時間ごとの地磁気擾乱の振幅を、0~9までの10段階で表した指数。
NASA (National Aeronautics and Space Administration)
米国航空宇宙局。アメリカ合衆国政府内における、宇宙開発に関わる計画を担当する連邦機関。
NOAA (National Oceanographic and Atmosphere Administration)
米国海洋大気局。海洋と大気に関する調査および研究を専門。
オーロラオバール
オーロラが”今現在”発生しているエリアを意味しており、宇宙から地球を見た時に極地にドーナツ状の輪のような形で現れる。
プラズマ
「固体」「液体」「気体」に続く物質の第4の状態。気体を構成する分子が電離し、陽イオンと電子に別れて運動している状態を指す。
プロトン現象
太陽風に含まれるプロトン(水素イオン)量が突然増加する現象。プロトン現象は大規模な太陽フレアやCMEに伴って発生する。
プロミネンス
紅炎。太陽表面の彩層部を構成する濃いガスの雲が、磁力線に沿って吹きあがる部分。
SDO衛星
アメリカ航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられた太陽観測衛星。先に打ち上げられたSOHO衛生の後継機として位置付けられることもある。
SOHO衛星
欧州宇宙機関 (ESA) と、アメリカ航空宇宙局 (NASA) によって開発された太陽探査機。
スポラディックE
高さが100km付近の電離圏E領域に、突発的に出来る電子密度の高い層。
太陽黒点
白色光で太陽を観測した時に、黒い点のように見える場所。
太陽活動周期
太陽黒点数の計測から導き出した、約11年で変動する太陽活動のサイクル。
太陽圏
太陽系において太陽風の届く範囲の空間。ヘリオスフィアとも言う。
太陽風
太陽から風のように噴出されるプラズマ粒子のエネルギーであり、太陽から宇宙空間へと絶えず噴き出している。オーロラ発生原理の出発点。
磁気嵐
太陽から来るプラズマの粒子、太陽風が、強い南向きの磁場を伴っている時に発生する地球磁場の変動現象。
宇宙線
宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線。
ヴァン・アレン帯
地球の磁場がとらえられた、陽子と電子からなる放射線帯。
白色光フレア
人間の目で見える光(白色光=可視連続光)でも爆発に伴う増光が観測されるほどの強力なフレア。
宇宙天気速報センター
人工衛星による最新の観測データを一定時間ごとに更新します。
最新画像
1.現在のオーロラオーバルの状況
現在のオーロラオーバルの状況を予測するシミュレーション画像が30分おきに更新されます。データの配信元であるSWPC(宇宙予報センター)とNOAA(アメリカ海洋大気庁)の運営するウェブサイトでは、過去数時間のオーロラオーバルの動きをアニメーションで確認できます。
最新画像
3.コロナの活動状況
NASAのSDO衛生のAIA193カメラによる太陽コロナの様子。この画像では主に「コロナホール」「太陽フレア」の状況を確認することができます。太陽活動が極小期に向かう時期はコロナホールの活動が活発になり、高速の太陽風が期待できます。コロナホールは突発的に出来るものではなく、その発生サイクルは太陽活動周期と密接に関係しています。
最新画像
4.太陽黒点の活動状況
NASAのSDO衛星による太陽の可視光写真。この画像では、主に太陽黒点の活動状況を確認することができます。太陽活動が極大期に向かう時期は太陽黒点の活動が活発になり、太陽フレアやコロナ質量放出(CME)の活動が増加する傾向があります。
ヤムナスカ・マウンテン・ツアーズ 堀口慎太郎 |
宇宙天気を極める
元々、宇宙というものには興味がありましたが、オーロラガイドをするようになってからは、その深い世界にどんどんと引き込まれていきました。 私は毎日のように宇宙天気ニュースの情報や、SWPCのオーロラオーバルの画像などを見ているのですが、最近はオーロラオーバルの出方にはある法則性があるようにも感じてきました。専門家の方には言わせると笑われるかもしれませんが、最近はコツコツとデータを集め、自分なりの統計理論を作ろうと楽しんでいます。オーロラの出現は本当に不思議で、どんなに宇宙天気の情報が読めるようになったとしても、未だに裏切られることが多いのです。しかし、だからこそオーロラとの出会いは感動的であり、多くの人々を魅了し続けるのではないでしょうか。
次は、太陽活動周期とオーロラの関係を解説します。
約11年の太陽活動サイクルこのページに記載されたすべての情報(テキスト、画像、イラストを含む)を無断で転用、コピー等をすることは禁止されています。掲載情報の使用をご希望の場合は、コンタクトページよりヤムナスカ・マウンテン・ツアーズまでご相談ください。