太陽で発生したオーロラの素「プラズマ」は、太陽風に乗って地球に辿り着きます。しかし、地球は磁力のバリアにより守られているため、太陽風はそのまま地上に届くことができません。地球でオーロラが発生するためには、太陽風が地球の磁力の壁を破り、地球磁気圏へと侵入する必要があるのです。
地球磁気圏
地球を守る磁場のバリア
地球磁気圏は地球に生きるすべての生命にとって大切なものです。宇宙からは太陽風や宇宙線として、放射線、微粒子などが地球に向かって飛んできています。これらは私たち生命にとって有害なものであるだけでなく、電気や通信機器にも多大な被害を与えます。しかし、地球磁気圏という磁場のバリアがあるおかげで、地球は守られているのです。
地球は磁場を持つ惑星です。コンパスをかざすと北がN極、南がS極を指すことから、地球は北がS極、南がN極となる大きな一つの磁石と考えることが出来ます。そして、この磁力が発する幾筋もの磁力線が、地球をぐるっと取り囲んでいるのです。 磁力線は綺麗に対極の形として、まるで地球の中に1本の棒磁石があるように広がりますが、実際はこのような形をしていません。 磁力線は太陽から絶えず吹き続ける太陽風により吹き流され、太陽とは反対側の地球の夜側に、まるで彗星の尾のように伸びているのです。このように磁気圏の流されている部分は「磁気圏尾部」と呼ばれます。この尾のように伸びた長さは、地球の半径の100倍から200倍である約60万kmから約120万kmにも達しています。
地球の磁場
地球磁気圏の防御壁
プラズマシート
太陽風の侵入経路
地球磁気圏が太陽風の防護壁として存在するのであれば、オーロラの素であるプラズマはどのように地球に侵入してくるのでしょうか。地球磁気圏の太陽側(昼側)は、太陽風によって押しつぶされているため、磁場の密度は高くなります。一方、反対側(夜側)は尾のように流されることで不安定になり、密度は薄くなっていきます。太陽風として地球磁気圏に衝突したプラズマ粒子は、磁力線に沿うように夜側へと流されていきますが、プラズマの一部はこの地球の磁力線の変形により磁場が弱くなった夜側から侵入し、一箇所に溜まっていきます。このプラズマ粒子の溜る場所を「プラズマシート」と呼びます。プラズマシートに溜まった膨大なプラズマ粒子は磁力線に沿って加速し、地球の極地へと流れていきます。そして、このプラズマ粒子が地球の大気と衝突することで、オーロラの輪であるオーロラオーバルが作られるのです。
もう一つの侵入経路
地球磁気圏の太陽側と地球の夜側の狭間である南北の極地には、磁気圏が「窓」のように開いた磁場の弱いエリアが生まれ、ここからもプラズマ粒子が地球に入り込んできます。しかし、ここから侵入するプラズマの密度は非常に薄く、実際はそのほとんどが入ってきません。太陽風で運ばれてきたプラズマは5個から10個/立法cmですが、私たちが目で見て分かるほどのオーロラになるには、数十億個/立法cmほどのプラズマが必要と言われています。そして、それだけの量のプラズマ流入を叶えるのが、プラズマの貯蔵庫であるプラズマシートなのです。オーロラオーバルが夜側に幅広になるのはこの理由のためです。
磁気リコネクション
プラズマを加速させるエネルギーの解放現象
なぜプラズマは特定の部分に溜まるのか、そして、何がきっかけで地球の極地へと運ばれるのかなど、その発生の仕組みは、まだ正確に解明はされていません。しかし、磁気圏尾部のプラズマシートで起こる「磁気リコネクション」という爆発的なエネルギー開放現象に起因することは分かっています。
プラズマシートに溜まったプラズマ粒子は、磁気リコネクションという磁力線の再結合現象により一気に加速し、地球へと膨大な質量を運び込みます。太陽風により地球の夜側方向へと流された磁力線は、地球から離れるほど不安定な状態になっていきます。そして、この引き伸ばされた磁力線の尾は限界に達すると弾けるように千切れ、すぐに安定した状態に戻ろうとします。この時、千切れた磁力線が再結合しあう現象が「磁気リコネクション」です。
磁気リコネクションの起こる場所とタイミングは太陽風の活動量に影響を受けて変化し、その距離は地球の半径の20倍から30倍ほどの場所で起こります。地球から遠くに離れていった磁力線は、やがてプラズマシートのある磁気圏尾部で交差し合い、磁力線のつなぎ変えが起こります。このつなぎ変えにより磁力線は一気に縮んでプラズマが加熱され、分割されたプラズマシートは高温、高速のプラズマの塊(プラズマモイド)となり、一気に放出されることになります。二つに分かれたプラズマの塊のうち、地球側に高速で向かってくるプラズマ粒子が磁力線に沿って極地へと流れ込み、地球の夜側にオーロラを発生させるのです。
1. 磁気圏尾部で磁力線が交差
2. 磁力線の断裂と再結合
磁力線に沿って大気圏へ侵入
太陽風として地球へ届けられるプラズマは1eV(電子ボルト)程度ですが、プラズマシートに溜まり始めると1000eVから10000eV程までに高まることが分かっています。地球には磁場があり、それは地上に近いほど強くなっていく傾向があります。そのため、プラズマがオーロラの発光する電離層(大気圏の一部)まで届くには、プラズマ自体にもかなりのエネルギーが必要ということになるのです。
プラズマシートに溜まった膨大な量のプラズマは、地球の磁力線に沿って極地の電離層へと侵入します。正確には磁力線に沿ってというより、磁力線に巻き付いて螺旋状の動きをしながら滑り降りてくるようなイメージで地球へ向ってきます。地球の大気圏に侵入したプラズマ粒子は、電離層の大気と衝突して、大気を構成する原子や分子が励起することにより、オーロラを発光させます。
次は、オーロラ発光のメカニズムを掘り下げましょう。
大気との衝突による発光このページに記載されたすべての情報(テキスト、画像、イラストを含む)を無断で転用、コピー等をすることは禁止されています。掲載情報の使用をご希望の場合は、コンタクトページよりヤムナスカ・マウンテン・ツアーズまでご相談ください。