地球上で良くオーロラが見られる場所は緯度60度から70度の高緯度に位置しており、これらの地域では夏の日照時間が極端に長く、冬は逆に極端に短いという特徴があります。オーロラはたとえ出現していたとしても、周囲が暗くならなければ見ることはできません。オーロラ鑑賞にとって理想的な時期と時間帯について考えてみましょう。
季節と日照時間の関係
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鑑賞のシーンズと日照時間の関係
北緯35度付近の東京でも夏と冬の日照時間は大きく異なりますが、オーロラベルトである北緯60度から70度ともなると、その変化は非常に顕著となります。特に北緯66度33分より北の北極圏では夏至の前後は白夜となり、星すら見ることができなくなります。そのため、オーロラベルトのエリアでは暗くなる時間が増え始める8月下旬頃から、再び明るい時間が増え始める4月末頃までがオーロラ鑑賞のシーズンとなり、ベルトの南端(低緯度)に近づくほどシーズンは長くなります。
カナダ、ユーコン準州のオーロラ鑑賞都市であるホワイトホースを例にすると、11月以降は日照時間が一気に短くなるため、17時過ぎの早い時間帯からオーロラ鑑賞を楽しむことが出来るようになります。オーロラとの遭遇を一番に考えるならば、夜の長くなる冬季の方がよりオーロラに出会える確率が高まることになるのです。
夏至を過ぎた6月22日、午前2時ごろにカナダ、ホワイトホースで撮影。北緯60度より北のエリアでは、夏の間の暗い時間が極端に短くなる。
カナダ、ホワイトホースの日照時間カレンダー
北緯60度43分に位置する、ホワイトホースの平均日照時間。
5月中旬から8月初旬までは夜が訪れないことが分かる。
※「夜の時間」は、実際にオーロラが見える天文薄明と夜を合わせた時間となります。詳しくは下記のコラム「オーロラ鑑賞が可能な天文薄明とは?」を参照ください。
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秋のオーロラ鑑賞も魅力的
秋はオーロラ鑑賞に適していないのでしょうか? もちろんそんなことはありません。高緯度にあるホワイトホース近郊では8月下旬頃から秋の陽気が訪れ始め、夜の11時を過ぎると十分にオーロラが見えるレベルの暗さとなります。また、この時期は湖も凍っていないため、湖に映り込むオーロラを撮影するチャンスもあります。
冬の方がオーロラを見る確率が高いことは間違いありませんが、極地の寒さはとても厳しいものがあります。しかし、秋の気温は日本の冬と同じくらいの寒さであるため、身体にも易しい季節です。そして、日本より一足早く訪れる紅葉も魅力の一つです。10月に入ると秋色は完全に終わってしまうため、魅力の少ない中途半端な時期と言えるかもしれません。
湖面に映りこむオーロラは秋の醍醐味。
オーロラ完全ガイド制作スタッフ 小泉優 |
オーロラ鑑賞が可能な天文薄明とは?
オーロラが見える時間帯をもう少し詳しく考えてみましょう。夕方、地平線の彼方に太陽が沈むと、空は徐々に漆黒の闇に包まれてきます。太陽が沈んでから実際に星やオーロラが見え始めるまでの間は「トワイライト=Twilight」と呼ばれています。トワイライトは「日の出前や日没後の薄明かり」を意味し、日本語では「薄明(はくめい)」と言います。トワイライトは地平線に対する太陽の角度により「常用薄明」「航海薄明」「天文薄明」の3種類に分けられており、太陽高度がマイナス12度を下回る天文薄明からオーロラ鑑賞に理想的な暗さとなってきます。
オーロラが見えるエリアは緯度が高く、白夜という言葉があるように夏には夜が訪れません。「夜」という定義は太陽高度がマイナス18度以下になることです。北緯60度付近では少なくても5月下旬から7月末までは太陽がマイナス18度以下には沈まないため、夜が訪れることはありません。
太陽高度によるトワイライトの分類。オーロラを見るためには、天文薄明よりも暗くなることが望ましい。
天文薄明時に撮影されたオーロラ。8月6日、午前1:00頃にホワイトホース近郊で撮影。
オーロラが現れる時間帯
ベストな時間帯というものは無い
『オーロラは何時ぐらいに良く出るのですか?』と聞かれることがあります。果たしてオーロラの現れる時間帯に法則のようなものはあるのでしょうか。実際のところオーロラは本当に気まぐれな現象であり、『何時頃がベスト』という明確な指針のようなものはありません。暗い時間帯ならいつ見れてもおかしくないというのが正しい答えとなりますが、この理由はオーロラの発生が太陽活動と密接に関係しているためです。
オーロラの素となる太陽風は太陽で起こる爆発現象などにより強く発生し、この太陽風が地球の大気圏に入り込むことでオーロラは発生します。しかし、この太陽活動が起こるタイミングには明確な規則性というものが存在しません。太陽活動が活発な期間はオーロラが出現したり消えたりを頻繁に繰り返すこともあり、まったく時間を読むことが出来ません。日が沈んだ直後のまだ薄明かりの時に現れた後、深夜には終わってしまうこともあれば、その逆に、明け方3時から4時頃に突然巨大なカーテンが現れることもあります。また、朝6時にオーロラ爆発のピークを迎え、そのまま日の出を迎えたということも珍しくはありません。そして、オーロラがまったく見えない日も当然あり得るのです。オーロラの出現とは太陽のご機嫌次第ということです。
2013年2月14日 19:11 カナダ、クルアニ・レイクで撮影。この日は早い時間から大きなオーロラが現れた。
2011年3月1日 朝6:12 ホワイトホースで撮影。この日は早朝から市内の明かりにも負けないほどのオーロラ爆発が発生した。
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早めの北欧、遅めの北米という噂の真相とは?
たまにオーロラ情報サイトなどで観測時間の目安を記述しているものを目にします。例えば、北欧では観察時刻が20時から23時頃と早めで、カナダ、アラスカなどでは22時から翌2時頃と遅めというものですが、果たしてこれは本当でしょうか? 先ほど書きましたように、実はオーロラの出現時間に決まりというものはありません。しかし、噂というものは何も無いところには立た無いものです。このように言われる背景を考えてみると、『この時間帯に良く見られた。』という体験談から来ているように思いますが、実は統計論的に考えるとオーロラが良く見られる”確率の高い”時間帯というものは存在するのかも知れません。
オーロラの素である太陽風は、地球の夜側から大量に侵入することが分かっています。地球を宇宙から観測した時にオーロラが出現しているエリアにできる輪を「オーロラオーバル」と言います。【画像A】はアメリカのSWPC(宇宙予報センター)が、NASAの人工衛星による観測データに基づいて作成しているオーロラオーバルのリアルタイム・シミュレーション画像です。この画像は世界標準時であるUTC(協定世界時)で2017年1月9日 17:30 (UTC) 時のものですが、この輪を見るとたしかに夜側の方に大きく幅広になっていることが分かります。あくまでも予想の域を出ませんが、多くの観測結果から見ると真夜中の場所付近に向かう辺りが幅広になる傾向が強いということは言えるかも知れません。
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【画像A】2017年1月9日 17:30 (UTC) のオーロラオーバル。オーバルの形状が真夜中側に向かって幅広になることが確認できる。
オーロラオーバルは真夜中付近が最も幅広になるが、幅の広さとピークとは別の話である
もし、地球に入り込む太陽風の動きに一晩中大きな変化が見られないような日を”仮定”するならば、真夜中の午前0時前後の地域が最もオーロラオーバルの幅が広くなる可能性はあります。しかし、この幅の広さの可能性と、オーロラの強さのピークが1日のうちに”いつ”来るかという話とは別なのです。太陽風も含めた宇宙環境は絶えず変化しているため、実際にはピークは様々な時間に”突然”訪れます。午前0時頃に弱いオーロラしか見え無い日であっても、その数時間後に突然太陽風が大量に地球に入り込み、強いオーロラが出現することは決して珍しいことではないのです。
【画像B】は 2017年1月17日 21:00 (UTC) 時のオーロラオーバルのシミュレーション画像です。この時、スウェーデン、ノルウェイが採用している時刻では22:00 (CET)ですが、あくまでもこの日の例では、この時点で北欧でのオーロラのピークは過ぎている様にも見えます。続いて【画像C】は先ほどの【画像B】の17時間後の画像であり、朝方に非常に強いピークが来たことが確認できます。この時、カナダのホワイトホースは朝6:55 (MST)、イエローナイフは朝7:55 (CST) です。この時刻のホワイトホースはまだ暗く、東側の空にオーロラが見えた可能性が高いです。また、イエローナイフでは南の空にピークが来ており、やや薄明るくなってくる頃ではあるものの、十分に強いオーロラが見えた可能性はあります。
これらの例からも、オーロラのピークの時刻には規則性がないことが分かることでしょう。オーロラを待っている間は時刻というのはあくまでも参考レベルにして、とにかく暗い間は可能な限り粘ることが何よりも大切であり、最後まで諦めないことこそが、オーロラに出会う可能性を最も高めると言うことは断言できます。オーロラを見逃さないためには、『オーロラが出た!』という時に、いつでもオーロラを見ることのできる環境を選ぶことが、最も賢い方法の一つと言えるのです。
【画像B】2017年1月17日 21:00 (UTC) のオーロラオーバル。スウェーデン、ノルウェイが採用している時刻では22:00 (CET) 。あくまでもこの日の例では、この時点で北欧でのオーロラのピークは過ぎている様にも見える。しかし、次にまたピークが来る気配があることにも注目したい。
【画像C】2017年1月18日 13:55 (UTC)のオーロラオーバル。【画像B】からさらに進み約17時間後の状況であり、この時、カナダのホワイトホースは朝6:55 (MST)。イエローナイフは7:55 (CST)。オーバルの幅は朝方に向かって狭くなっているものの、出現確率の高めなピークが訪れていることが確認できる。
月明かりの影響
月明かりはオーロラを邪魔するのか?
満月の日は明るすぎてオーロラを見ることができないと思われがちですが、実際はどうでしょうか? 月の影響を考えてみましょう。【写真D】は半月の時に撮影したものです。カーテン状に揺れるオーロラと月が重なっていますが、決してオーロラの光を邪魔していません。月の明るさに照らされた山々とオーロラの組み合わせは見事の一言であり、まさに、この場所でしか見ることのできない特異な景観と言えます。
たしかに満月の光は強く、弱いオーロラの場合は影響が出ることでしょう。しかし、実際には満月の光が非常に強くなるのは満月を挟んだ数日のみであるという事実はあまり知られていません。
【写真D】半月時に出現したオーロラ。
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避けるべきは満月の前後2日
満月の下では本が読めるくらい明るくなることは知られていますが、半月時はどのくらいの明るさでしょうか。これを知っておけば、新月を狙ってオーロラを見に行く必要がなくなるかもしれません。実は月の明るさは月の満ち欠けの大きさとは均等に比例せず、満月を挟んだ1日から2日間のみが急激に明るくなるという特性があります。
【グラフE】は、月の大きさに対する光の強さを表したものです。満月の明るさを”100%”とした場合、三日月の時は”6%”、半月の時で”7%から8%”ほどしかなく、満月の2日前後でもわずか”50%から60%”と、満月時の半分ほどしかありません。つまり、月は満月を挟んだ数日間のみ急激に明るくなることが分かります。オーロラ鑑賞は新月に限る、というこだわりは無用なのです。
【グラフE】月の大きさと明るさの対比表。
次は、オーロラ予報と天気予報、そして実際にオーロラに遭遇する確率について考えます。
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