私たち生命にとって掛け替えのない存在である太陽。オーロラはこの太陽が放出する太陽風によって生み出されます。太陽風発生のメカニズムには、太陽の構造と太陽で起こるいくつかの太陽活動が密接に関係しています。オーロラの故郷である太陽で、いったい何が起こっているのでしょうか。
太陽の構造
燃える太陽
オーロラの故郷「太陽」とはどういった星でしょうか。母なる太陽と形容されることもありますが、その素顔はそれほど穏やかなものではありません。太陽は主に水素(約74%)とヘリウム(約25%)の高温ガスが充満する巨大な恒星です。太陽の中心部付近では強大な重力のために水素がヘリウムへと変換され、その際に莫大なエネルギーが放出される「核融合反応」が起こっています。このエネルギーが私たちの住む地球へと届いているのです。
太陽の表面を覆う大気層「コロナ」
オーロラの素となる成分はどこに存在するのでしょうか。太陽の表面は、約100万度以上の高温となる「コロナ」と呼ばれる大気の層に覆われています。コロナでは水素原子がその形をとどめられず、原子核(陽イオン)と電子がばらばらになった状態である高温のガス「プラズマ」として存在します。まさにこのプラズマがオーロラの素となるのです。太陽表面に漂うプラズマ粒子は、太陽の活動により「太陽風」として絶えず宇宙空間へと放出されています。
核融合反応の起こる太陽の中心は、太陽全体で最も高温の場所であり、約1600万度もあります。温度は太陽の外側に行くにしたがって徐々に下がり、太陽表面では約6000度になります。しかし、表面のさらに外側を覆うように存在する「彩層」と「コロナ」の大気層では温度が一気に上がり、最外層であるコロナでは、約100万度と桁違いに温度が高くなっています。これは冷たいストーブの上でやかんが沸騰するような不思議な現象ですが、まだはっきりとした答えが出ていない、太陽の謎の一つです。
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太陽の構造
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皆既日食の際にはコロナを肉眼で見ることができる。
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太陽風
太陽で生まれるプラズマの風
「太陽風=Solar wind」は、太陽から風のように噴出されるプラズマ粒子のエネルギーであり、太陽から宇宙空間へと絶えず噴き出しています。1950年台にドイツの科学者ビヤマン博士が、彗星の尾が太陽と逆の方向にたなびくことの観察から、その存在を予言していました。その後のアメリカやソ連の探査衛星により、太陽風の存在は証明されました。
太陽風は太陽から音速を超える速さで吹き出され、地球の近くでは秒速300km/secから800km/secにも達します。時速に直すと時速100万kmから280万kmという、とてつもない速さで飛んできていることになります。太陽から地球までの距離は約1億5000万kmもありますが、高速の太陽風はわずか2日から3日で地球に到達します。
太陽風の発生するタイミングやエネルギーの強さは、太陽表面で起こる様々な太陽活動に起因します。主な現象は3つあり、それが「太陽フレア」「コロナ質量放出(CME)」、そして「コロナホール」です。これら太陽活動については次のページ「太陽風を起こす3つの太陽活動」でそれぞれ詳しく解説をします。
彗星の尾は太陽風の影響により、太陽と逆の方向にたなびく。
オーロラ完全ガイド制作スタッフ 小泉優 |
太陽と地球の距離は宇宙を測る単位になっている!
宇宙を測る単位
太陽から地球までの距離は約1億5000万kmであり、この距離は「1AU」という天文単位になっています。宇宙はとてつもなく広く、キロメートルで表すには大きすぎるのです。しかし、このAUという単位も、せいぜい太陽系を測る単位でしかありません。
AUの次の単位はLY(光年)です。「1LY」は光が1年で進む距離であり、AUに換算すると、なんと約6万3241AU! それでも、太陽以外で地球から一番近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリまで4.24LYもあるのです。宇宙は想像もできないほど壮大な空間なのですね。
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天文単位と光年
1AU 約1億5000万km* 1LY 約6万3241AU * 正確には、149,597,870,700 m。
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地球からの距離
月 38万4400km 金星 3962万km 太陽 1AU プロキシマ・ケンタウリ 4.24LY アンドロメダ銀河 254万LY
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太陽風はどこまで吹いているのか?
ヘリオポーズと太陽圏
いったい太陽風はどこまで達しているのでしょうか。 いくら太陽のエネルギーがすさまじいといっても、宇宙空間を無限に進むわけではありません。太陽風は地球付近で秒速300km/secから800km/secのスピードで吹いていますが、遠ざかるに連れてその圧力が徐々に下がっていきます。そして、周囲のガスと同じ圧力になった場所で太陽風の影響がゼロとなり、このゼロポイントを「ヘリオポーズ - Heliopause」と呼んでいます。また、太陽風の届く範囲を「太陽圏(ヘリオスフィア)」と呼びます。
太陽風の届く距離であるヘリオポーズまでの距離は、約50AUから160AUと推定されています。1977年に打ち上げられたNASAの宇宙探査機ボイジャー1号が、2012年に人工物としては初めてヘリオポーズを通過したというニュースも話題になりました。果てしない宇宙の旅ですね。
プラズマ
物質の第4の状態「プラズマ」
太陽風として地球に届くプラズマとは、いったい何者なのでしょうか。プラズマとは「固体」「液体」「気体」に続く物質の第4の状態のことで、その語源はギリシャ語で「神によって形作られたもの」という意味があります。
身近な「水」を例に考えてみましょう。水は氷点下では「固体(氷)」です。温度が上がり常温になると、「液体(水)」となり、摂氏100度を超えると沸騰し「気体(水蒸気)」となります。そして、さらに温度が上がり、数千度から1万度以上もの高温になると、水素原子と酸素原子はそれぞれ「電離」することでバラバラとなり、非常に活性化した高温のガスと呼べる状態となります。つまり、プラズマとは物質を構成する「原子」がプラスの「原子核」とマイナスの「電子」に別れた状態ということです。
地球で見られるプラズマの現象は、オーロラだけではありません。雷やロウソクの炎も、このプラズマの一つです。また、プラズマテレビや蛍光灯は、プラズマを利用した発明品です。太陽は水素原子が電離した「コロナ」と呼ばれるプラズマのガスに覆われていますが、他にも宇宙にはたくさんのプラズマが存在しています。実はこの地球も含めて、宇宙空間にある物質の99.9%以上がプラズマで出来ていると言われています。
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物質の形態と原子レベルの状態の変化
オーロラ完全ガイド制作スタッフ 小泉優 |
高温のプラズマは、なぜ人工衛星などを破壊しないのか?
太陽からやってくるプラズマ粒子は非常に高温のガスであり、地球を通過するころの温度は約10万度と言われています。何でも溶かしてしまうほどの高温ですが、宇宙を飛んでいる人工衛星や宇宙飛行士は大丈夫なのでしょうか。その謎は密度に隠されています。
実は、プラズマに含まれる粒子の数は決して多くはありません。角砂糖ほどの大きさである1立方cmに5個から10個ほどしか入っていないのです。同じ体積の水に含まれる粒子の数は3.3×10の22乗、つまり「3,300,000,000,000,000,000,000,000,000,000」。数えることもできないほどの量であることを考えると、プラズマの数がどれだけ少なく、希薄かということが分かるでしょう。
太陽風が非常に高速の時でさえ、プラズマの密度はわずか30個から50個/立法cmほどまでしか増えません。100度のお湯に手を入れたら火傷をしますが、それは膨大な数の水分子が100度の熱量を持っているためです。たとえ10万度の高温の粒子でも、密度が少なければ火傷どころか、まったく温度を感じることはないでしょう。
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次は、太陽面で起こる3つの太陽活動を見てみましょう。
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