太陽を覆うコロナからは、電気を帯びた高温のガスである太陽風が絶えず吹き出しています。しかし、地球でオーロラが生じるほどの強いレベルのものは、いつも発生しているわけではありません。強力な太陽風を起こす代表的な現象は3つあり、それが「太陽フレア」「コロナ質量放出(CME)」、そして「コロナホール」です。
太陽フレア
太陽フレアとは?
太陽フレアとは、太陽面で起こる爆発現象です。最大級のフレアは、ごく短時間の爆発で10の25乗ジュールという莫大な質量の電磁波を放出します。これは日本中で1年間に消費される電気エネルギーである10の19乗ジュールの100万倍という強大なエネルギーとなります。
フレアの爆発によりコロナに漂う荷電粒子(プラズマ)は宇宙空間へと放出され、これが太陽風となって地球に到達します。そして、このプラズマ粒子がオーロラを発生される大きな要因の一つとなるのです。
太陽フレアは可視光線だけでなく、ガンマ線や紫外線、X線などの放射線も同時に放出します。強大な太陽フレアは極めて高エネルギーの粒子を放出するため、デリンジャー現象などの短波通信障害や、人工衛星搭載機器の障害を引きおこす原因となります。
太陽フレアの規模
フレアの規模は、放出されるX線の強度を基準に5つのクラスに分類されます。クラスは強い順から、「X」>「M」>「C」>「B」>「A」となり、各クラスはそれぞれ10倍ずつの差があります。つまり、最大のXフレアは最弱のAフレアの10000倍の規模となります。また、各クラスは1から9の番号で分割され、さらに「X1.8」や「C2.5」という小数点一桁までの数値で表されます。
C10.0=M1.0、M10.0=X1.0となりますが、Xクラスはその上がないため、その規模によりX10やX20という数値で表されます。Xクラスのフレアが発生して地球に影響が見られると、かなり大きなオーロラが発生します。衛星での観測が始まって以来、史上最大のフレアは、2003年11月4日に起こった「X28」と言われています。
太陽フレア発生と黒点の関係
太陽フレアは、主に「黒点」附近の強力な磁場エネルギーが開放されて起こることが分かっています。つまり、黒点が多いほど太陽フレアも発生することになり、黒点の規模により太陽フレアの規模も変わることになります。
黒点とは白色光で太陽を観測した時に、黒い点のように見える場所です。黒く見えるのは黒点の温度が周りの温度に比べて約2000度も低くなっているためです。黒点の附近は特に磁場が強くなり、この黒点の強力な磁場が太陽内部から表面に向かうエネルギーを妨げることで、附近の温度が低くなるのです。
黒点の寿命は数日で消える短命なものから、数ヶ月にも及ぶものまでありますが、いつ出現するかは良くわかっていません。しかし、黒点の数は約11年周期で変動する太陽活動サイクルに伴い、大きく変動することが分かっています。オーロラの情報サイトなどを見ると良くこの11年周期の事が語られますが、これはあくまでもこの太陽活動サイクルに起因する黒点の変動であり、これがオーロラの発生頻度のすべてではありません。詳しくは「約11年の太陽活動サイクル」に記載しています。
ヤムナスカ・マウンテン・ツアーズ 堀口慎太郎 |
太陽フレアとプロミネンスの違い
太陽活動の図解イラストなどで、共に炎が吹き出すイメージで描かれることが多いため、太陽フレアとプロミネンスは同じものと混同されがちですが、これらは全く違うものです。太陽フレアとは主に黒点付近の磁場のエネルギーが、急激に解放されることによって発生する大規模な爆発現象です。一方、プロミネンス(紅炎)は、太陽表面の彩層部を構成する濃いガスの雲が、磁力線に沿って吹きあがる部分の名称です。プロミネンスはコロナの中にアーチ状にできることが多いものの、形や大きさはさまざまで、寿命は数分から数か月に及ぶこともあります。
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左上のアーチ状の光がプロミネンス
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コロナ質量放出(CME)
膨大な質量の衝撃波
コロナ質量放出=CME(Coronal Mass Ejection)は、太陽から宇宙空間へ突発的に「プラズマの塊」が放出される現象です。太陽フレアと同様に磁場のエネルギーが突然解放されて起こります。CMEは太陽フレア共に発生することが多いいものの、CME単体で発生することもあり、その因果関係は未だに良く分かっていません。
太陽の磁気エネルギーが解放された時、放射線などの電磁エネルギーとして放出されるのが太陽フレアであるのに対し、コロナに蓄えられたプラズマが雲のように塊り、これらのプラズマ質量が太陽の磁場と共に一気に放出される現象がCMEです。そのため、放出されたCMEの前面には強い衝撃波が生じています。
1回のCMEが放出するプラズマの質量は10億トンにも達し、放出されたプラズマの太陽風は平均的な速度である秒速 400 km/sec よりも速く、800 km/secにも達する場合もあります。CMEが発生し地球へ向って来ると、大量のプラズマが地球に到達することもあり、巨大なオーロラやオーロラ爆発も期待できます。一方、大規模な太陽フレアと同様に、地球磁気圏に磁気嵐を起こす原因となるため、人工衛星や電子機器、通信機器の故障などに繋がります。
CMEによる衝撃波
中心が太陽、地球は黄色の丸で表され、ちょうど水平のライン右側に位置しています。その他の丸は火星や木星など別の惑星になります。 太陽の右側からCMEによる強い衝撃波が飛び出してくる様子が見られます。
太陽観測衛星SOHOが捉えたCMEの瞬間
中心の太陽から周囲に向かって放射状に出ているものが通常の太陽風です。CMEが突発的な爆発として、太陽から噴出してくる様子がわかります。
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太陽フレアとコロナ質量放出(CME)は、発生する場所も重要
太陽面で太陽フレアやコロナ質量放出(CME)が発生したら、必ず太陽風が地球に向かって来るわけではありません。発生の場所、角度やタイミングなどによっては太陽風が地球に届かず、オーロラ活動への影響がほとんどない場合があります。
太陽は地球と同じように自転しているので、太陽風が太陽から運び出す磁場は渦巻き状になっています。そのため、太陽の西側で発生した太陽フレアやCMEは、太陽の自転により地球側から見ると隠れていく角度になるため、太陽風も地球の方向に向かってきません。
コロナホール
コロナホールは高速太陽風の源
コロナホールとは、太陽を覆う大気であるコロナに見られる、低温、低密度のエリアであり、太陽表面をX線で観測した時に巨大な穴のように見えるために、コロナホールと呼ばれます。
通常コロナは磁力の流れに沿って持ち上げられ、その後、磁力の流れに沿って表面へ戻ってきます。言うなれば、プラズマ粒子は、コロナの大気に閉じ込められている状態です。しかし、コロナホールでは、この磁力線の流れが断ち切られるため、プラズマは太陽表面に戻されずに、宇宙空間へと放出されます。巨大なコロナホールから放出されるプラズマの質量は非常に膨大であるため、太陽風は普段の2倍から3倍の速度になることもあります。コロナホールは高速太陽風の源と言えるのです。
コロナホールは太陽活動が極小期に向かうと活発になる
コロナホールが黒く見えるのは、「黒点」と同じように周囲に比べて温度が低いためですが、コロナホールは黒点よりも遥かに巨大であり、また、それぞれの発生のサイクルは対極にあると言えます。
太陽には約11年周期の活動サイクルがあり、活動が激しい「極大期」には黒点が数多く現れ、それに伴う太陽フレアやCMEが数多く発生します。しかし、この時期にはコロナホールは減少に向かうのです。一方、「極小期」になると太陽磁場が反転し、巨大なコロナホールが太陽の両極付近に現れます。その後、太陽の活動が弱まっていくと、コロナホールは徐々に大きくなりながら、両極から遠くへと広がります。つまり、極大期は太陽フレアやCMEの影響がより現れ、逆に極小期はコロナホールによる影響が大きいと言えるのです。どちらも強い太陽風を発生させる要因には変わりませんので、極小期でもコロナホールのタイミングが合えば、強いオーロラに巡りあえる可能性は十分にあるのです。
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コロナホールが太陽の磁場の流れを遮ることで、その部分のコロナに含まれる大量のプラズマは宇宙空間へと放出される。
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オーロラ完全ガイド制作スタッフ 小泉優 |
我々の生活に影響を及ぼす磁気嵐
太陽で大規模な太陽フレアやCMEが発生すると、爆発的に放出される放射線や電磁波(プラズマ)が太陽風として地球へ到達し、地球磁気圏に生じる大規模な変動現象である「磁気嵐」を起こします。
太陽から放出された放射線やプラズマはそれぞれ速度に差があるため、地球に届くのには時間差が生じます。始めに到達するのが電磁波であり、地球までは8分ほどで到達してしまいます。 次に来るのが放射線で、これは数時間で到達します。そして最後に来るのがプラズマなどの高エネルギーの電荷粒子と呼ばれるもので、地球到達までは2から3日ほどかかります。
磁気嵐は主に電波障害や通信障害などを起こし、多くの通信システム(人工衛星、送電施設、飛行機の無線など)に影響を与え、我々に身近なところではインターネットや携帯電話にも影響が出る可能性もあります。実際に1989年には大規模な磁気嵐が起こり、カナダ、ケベック州全域で大規模な停電が発生、人工衛星にも多くの障害を引き起こしました。 また、宇宙空間で活動している宇宙飛行士は、放射線の影響を受けない施設内に避難しないと被曝してしまいます。
しかし、磁気嵐が起こると悪いことばかりではありません。磁気嵐を起こす強力な太陽風は、最高レベルのオーロラである「オーロラ爆発(ブレイクアップ)」を起こす要因ともなるのです。詳しくは「オーロラ爆発と磁気嵐」を参照してください。
次は、地球に到達した太陽風が、どのように地球へと侵入してくるかを解説します。
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